インハウスローヤーが知っておきたい事件紹介のお作法

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二重橋前

本サイトでは、基本的に事務所弁護士向けの情報を発信していますが、今回はインハウスローヤー向けの内容になります。

近年、事務所弁護士を経ずにインハウスローヤーになる方が増えていますが、そうした方のために、事件紹介の一般的な流れや、事務所弁護士が聞きたいと思っているポイントをご紹介します。

1 事件紹介の一般的な流れ

事件紹介の電話は、日中に事務所の電話にかかってくるか、夜、携帯にかかってくることが多いです。事務所に電話があると、「仕事の依頼かな?」と予測します。

インハウスローヤー
インハウスローヤー

ご無沙汰しています。いま、10分か15分くらいお電話よろしいですか。

インハウスローヤーもそうだと思いますが、事務所弁護士も、会議や裁判等、自分では支配できない予定がたくさんあります。電話に出たものの、すぐに出掛けなくてはならない場合もあるので、どのくらい時間を要するのか、あらかじめ伝えて頂けると助かります。

事務所弁護士
事務所弁護士

大丈夫ですよ。午後は何も予定が入っていません。

インハウスローヤー
インハウスローヤー

最近お忙しいですか?

何げない挨拶に見えますが、実は、事件紹介に向けた布石です。寝る暇がないほど忙しい人に事件は頼めません。

事務所弁護士
事務所弁護士

比較的忙しいですが、一時期に比べると落ち着いています。
(暇とは言えないしな。)

(ちなみに私は、この時点で、「忙しすぎて新しい事件をやる余裕が全くない。」と断ったところ、知人弁護士から「離婚事件の女性側で、夫の年収は5000万円なんですよ。他の弁護士に当たってみますね。」と言われた苦い経験があります。話は最後まで聞くことです。)

インハウスローヤー
インハウスローヤー

ところで先生は、相続案件も扱われていますか?

分野によって、使用者側の労働問題は扱わない、医師側の医療問題は扱わない、といったことがあるので、必要に応じて取り扱いの有無を確認します。

事務所弁護士
事務所弁護士

相続案件は常に1、2件は抱えているので、これまで相当数を処理しています。渉外案件を含め、複雑な事件を多数解決していますし、相続は私が得意とする分野の一つです。

(私は、案件の扱いの有無と、これまでの実績を具体的に伝えるようにしています。なぜなら、知人弁護士は、依頼者に対し、私がどのような弁護士なのか説明する必要があるからです。弁護士の実績が気になる依頼者は多く、翌日に再度知人弁護士から電話があり、「依頼者が先生の実績を聞きたいと言っているのですが、何と説明したらいいですか。」と聞かれることがあります。最初の電話で伝えておいた方が効率的です。)

インハウスローヤー
インハウスローヤー

知り合いが相続問題で悩んでいるのですが、もし良かったら相談に乗って頂けませんか。

インハウスローヤー
インハウスローヤー

聞いている範囲で事案をご説明しますね。

(事案の概要を説明する。)

依頼者から事案の概要を聞いていない場合は、「相続」「離婚」「交通事故」等のカテゴリーだけで十分です。

事務所弁護士
事務所弁護士

ご相談に応じられます。

依頼者の方に事務所にお越しいただき、直接話をお伺いしたいと思います。正式に委任するかどうかは、その後に決めていただいて結構です。

私の事務所では旧報酬基準を踏襲しているので、弁護士費用は他の事務所と同程度だと思います。相談料は30分5000円税別です。

(相談料は依頼者にとって重大な関心事なので、私はあらかじめ相談料を伝えるようにしています。)

事務所弁護士
事務所弁護士

依頼者の名前を教えて頂けますか。

インハウスローヤー
インハウスローヤー

依頼者は甲山一郎さんという方です。先生の事務所に電話連絡のうえ訪問するように伝えておきます。ご対応いただきありがとうございました。

通常はこの程度のやり取りで終わることが多いですが、事務所によっては、利益相反のチェックに時間がかかるので、受任の可否は追って連絡、ということになるかもしれません。

2 事務所弁護士が聞きたいと思っている内容

私は、紹介者の弁護士と親しければ、以下の内容を聞きます。

①依頼者との関係性

事務所弁護士
事務所弁護士

ちなみに、依頼者とはどのような関係ですか?

知人弁護士と依頼者との関係は、交流会で1回会っただけの関係から、上司、親族まで様々な場合があります。できれば関係性を知ったうえで依頼者と接したいものです。

どのような依頼者であれプロとしての仕事を行いますが、プラスアルファのサービスは人によって異なります。知人弁護士が親族の事件を託してくれたとなれば、当然気合いが入ります。

②依頼者の資力について

事務所弁護士
事務所弁護士

依頼者は大学生とのことですが、資力はありそうですか?

相談内容を聞いて気になった場合、さりげなく依頼者の資力を聞きます。資力がなければ費用を安くしたり、分割に応じたりすることもあります。

ちなみに、法テラスの利用については、対応していない弁護士も多いはずです。もし、依頼者が法テラスの利用を希望している場合、紹介する側の弁護士は、事務所弁護士に法テラス対応の可否を確認するべきです。

③依頼者に対して説明した内容

事務所弁護士
事務所弁護士

事件の見通しについて、依頼者に何か説明されましたか?

私は、インハウスローヤーの方にはよく聞きます。インハウスローヤーの方が依頼者に説明した方針や見立てがズレていることがたまにありますが、これをうまくフォローするのも事務所弁護士の役目です。

依頼者が法律相談で来所した際に、「インハウス先生は、訴訟で争えば勝てるっておっしゃっていましたけど・・・」と言った場合に、「えっ、おかしいなあ。インハウス先生、なんでそんな説明しちゃったんだろう。」なんて言ったら失格です。

私が依頼者に説明する場合、「事件処理の方針は、弁護士によってそれぞれ違います。私も最初は、インハウス先生と同じような方針を考えたのですが、本日、詳細な事実関係をお伺いしたところ、〇〇という不利な事情がありますので、訴訟よりも交渉で解決した方が得策です。」といった言い回しを使います。

紹介する側の弁護士にとって大切なのは、機転を利かせてくれるような事務所弁護士に事件を紹介することであり、もっと大切なのは、確証が持てない内容を依頼者に説明しないことです。

3 紹介者(インハウスローヤー)が注意すべき点

事件を紹介する際に気を付けなければならないのは、事務所弁護士に対し、「事件を紹介してあげたので感謝しろ。」という態度で接しないことです。

事件の筋が良く、良かれと思って紹介した場合でも、紹介を受けた事務所弁護士が、「本当はこの種の事件はやりたくないけれど、インハウス先生の紹介だったから仕方なく受けた」と思っていることがあります。

時として、こうした不幸なミスマッチが生じます。

どうせ事件を紹介するなら、感謝してくれる人に回したいものです。同期の飲み会に出て知り合いの近況を聞いておくと、紹介先で迷うことが少なくなります。

以上は、私の個人的な経験に基づく一意見に過ぎませんが、ご参考になれば幸いです。

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